PR Standard ―広報の基礎知識―

テレビニュースはどうやって作られる? ~PRの前に知っておきたいテレビの基本~

2020-09-16 / by 伊東正樹

 <目次>



 テレビはもっとも影響力を持つメディアの一つ、と言っても過言ではありません。テレビで紹介されることで大きな話題になったり、問い合わせが増えたり、ときには社会現象になることもあります。インターネット上に残り何度でも見られるWEBコンテンツとは異なり、1度の放送でも、社会を巻き込む影響力の強さがテレビの特徴です。


今回は、テレビディレクターとして、「フジテレビ/スーパーニュース」や「TBS/ウォッチ!」、「TBS/みのもんたの朝ズバッ!」、「テレビ朝日/ワイド!スクランブル」など様々な番組制作に10年間携わったのち、PR業界に転身したKMCグループ取締役・長沢がテレビ制作の現場についてお話します。

“ニュース制作現場の1日”

  テレビの生放送番組には、報道局が作る「報道番組」と、情報局が作る「情報番組」があります。
報道番組は大別して、1日の番組の合間に何度か放送される、「5分のショートニュース」、「お昼の2~30分のニュース枠」、「夕方と夜のニュース番組」に分かれます。

それ以外は、芸能・エンタメ、グルメなど幅広いジャンルを取り扱う、主に朝から日中に放送している情報番組です。

番組や局によって異なりますが、今回は報道番組の中でも各局が力を入れている夕方の番組を例に、ニュースが作られていく流れを紹介します。

夕方の報道番組は主に、ニュースと特集で構成されます。
2時間枠の番組の場合、ニュース班、特集班以外にも、天気、スポーツ、報道技術のカメラマン、スタジオ周りなど、スタッフは200人以上がいます。


  ニュース班は、朝8時くらいから始まる会議で、プロデューサーやチーフディレクターが事前に決めた方向性の下で、担当を振られ取材に向けて情報確認など準備をします。

 会議後から取材を開始して15時くらいまでにある程度は撮影を終えますが、差し替えになることもあるので、ギリギリまでカメラを回しています。

 取材担当が外に出ている間に原稿担当が構成を考え、映像データが集まり始める15時くらいから仮原稿などを元に編集作業を行います。1時間分の映像素材を撮っても最終的には1〜2分間程のOAにしかなりません。

編集作業からオンエアまでの1〜2時間で1分前後のVTRを仕上げるので、夕方の報道局は殺気に満ちている、まさに「戦場」。放送で流れる短い1分の裏側では、このように撮影や制作にとても時間と手間がかかっているんです。


一方の特集班は、10分強の特集コーナーのVTRを、基本的に1人で担当します。
WEBニュースや新聞から情報を拾ってネタ出しして、撮影、原稿執筆、編集と2~3週に1本のペースで作ります。企画を出すタイミングはまちまちですが、自分の担当日に向けて出すので2~3週前にはだいたい担当するネタが決まっています。

ニュース班と特集班、どちらの班も最終的なネタの可否は、プロデューサー、チーフディレクターが精査して決まっていきます。このようにニュースがどのように決まり制作されるのか、現場の工程を理解することがアプローチの時にも重要になってきます。


“よくあるTV業界への勘違い”

もう一つ企業や広報側がテレビについて理解おくべきことがあります。

それは「取材される=希望通りの情報が出るとは限らない」ということ。

「こんなに取材に協力したんだから、宣伝してくれるんでしょう?」と思ってオンエア見たら、期待してた内容ではなかったり、一部しか報道されなかったり、気落ちする人は多いと思います。テレビが宣伝色を出さないのは、番組にスポンサーがついているからです。
取材に協力してもらったので番組側もできるだけ紹介したい、という気持ちはある一方で、宣伝色が強くなってしまうと番組に広告宣伝費を出しているスポンサーの不満となってしまうため宣伝にならないよう編集せざるを得ません。
これは店舗紹介のオンエアでいうと、店名や商品名は紹介されても、URLや問合せ先などの情報が流れない理由の一つです。


また、よくある勘違いのひとつとして、「やらせと演出」の違いも挙げられると思います。

私が個人的に考える違いは何かというと、ゼロのものをあるように見せるのが「やらせ」。いわゆる“捏造”です。一方で、実際にある現象などをオーバーに伝えるのが「演出」と思って区別しています。

例えば、「行列ができるお店」があるとして、週末に行列ができても平日は行列していない可能性もあります。だからあえて行列が撮影できる週末にロケに行き、お店のよさや特徴など元々あるものを、視聴者に伝わるように盛り上げながら撮るのが「演出」です。

しかし、行列のできない店に無理やり人を並べたら、それは「やらせ」になります。

実際起きている現象のタイミングを狙ってでも撮りに行くというのは、伝えるために必要なことです。でもそれを無理やりやってしまえば、嘘になってしまうということです。

 ディレクターは「どういうネタの切り口にしたら、視聴者が見てくれるのか?」「取材方法や構成をどう工夫すれば、興味を持ってもらえるのか?」を常に考えています。それと同時に、「正確であること、万人受けすること」も大事にしながら、日々悩んでいるのです。

 ----------------------------------------------------------------------

以上、テレビ制作の流れや現場について紹介しましたが、メディアに報道してもらうにはその動きや実態を把握することがとても大切です。
次回は、番組とどのように信頼関係を築き、アプローチしていくべきかをご紹介します。


(文/早川麻里 編集/伊東正樹)

Tags: PRの基本, テレビPR

伊東正樹

Written by 伊東正樹

PR戦略局マネージャー。神奈川県出身。早稲田大学にて開発経済学を専攻し、商社、ライター経験を経て、現職にてコンサルティング業務に従事。 「金融、IT・通信、ヘルスケア、不動産、外食、美容・ファッション、自治体・ふるさと納税」など様々な業種のPRに携わり、現在は企業のSDGs・CSR案件やNPOなどソーシャル分野を担当。戦略策定や報道分析、記者発表会等のイベント企画・運営、報道資料作成、SNS・WEB広告の運用・分析、アンケート調査設計など一連の業務に携わる。