PR Standard ―広報の基礎知識―

飲食業界・企業のコロナ対応 3選 ~ソーシャルディスタンスを逆手に利用した広報・PR~

2021-04-13 / by 清水 絵理

コロナ禍によって多くの業界・企業がビジネスの後退を余儀なくされました。中でも大きなダメージを受けたのが飲食業界・飲食企業です。この記事では、ひねりの効いたコロナ対応で注目を集めた飲食店の実例を3つご紹介します。コロナは深刻な問題でありますが、ユーモアあふれる切り返しは企業イメージを向上させる可能性を秘めています。まさに企業ブランディングであり、広報・PR担当が力を発揮できる局面でしょう。

コロナ禍と、飲食業界の状況まとめ

2020年3月11日、WHO(世界保健機関)が「新型コロナウイルス感染症はパンデミックと言える」との認識を示しました。日本でも感染が拡大。2020年4月7日には東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言が発令され、4月16日には対象が全国に拡大されました。感染者数は一旦減少したものの、再び増加。2021年1月7日から日本政府は首都圏を中心に緊急事態宣言を再度発令。それにより、該当地域の飲食店は午後8時までの時短営業を求められました。宣言解除後の2021年4月現在も、複数の都府県において飲食店への時短営業要請がなされています(まん延防止)。

飲食店にとってのダメージは時短要請もさることながら、店内飲食そのものが良くないことのように捉えられてしまった点にあるでしょう。食事中の“ソーシャルディスタンス”を確保するには、客席を間引く必要があります。仮に席数が半減するならば、客単価が倍増しなければ従来並の利益は確保できません。事実、2020年における飲食店事業者の倒産は780件発生し、過去最多の水準となりました。※2021年1月6日 帝国データバンクより

そんな厳しい状況に置かれている飲食業界ですが、“ソーシャルディスタンス”を逆手にとった意外な施策により広報・PR(メディアでの話題化)に成功した企業も存在します。実例を見ていきましょう。

 

実例1.BEAMS×TRANSIT GENERAL OFFICE「ソーシャル・ディスタンシング マネキンプロジェクト」

コロナ対応のソーシャル・ディスタンシング マネキンプロジェクト2020年6月、飲食店の運営などを手がけるトランジットジェネラルオフィスとビームスが共同で「ソーシャル・ディスタンシング マネキンプロジェクト」を実施しました。このプロジェクトは、トランジットの運営する東京・恵⽐寿のレストラン「THE PIG & THE LADY」の店内に、ビームスの春夏アイテムを纏った8体のマネキンを設置するというものです。

飲食店の店内にBEAMSのマネキンが。

©BEAMS

これらのマネキンを設置することで、来店客同士のフィジカル・ディスタンシングを保持するとともに、店内を初夏のムードに演出しました。マネキンに関しては、ビームスのスタッフがスタイリングを担当し、毎週1回コーディネートをチェンジして飽きさせないように工夫。

また、座席にはビームス公式オンラインショップのアイテムページにアクセスするQRコードがあり、マネキンが着用しているアイテムの情報が簡単に確認できるようにもなっていました。

この取り組みは、TimeOut東京や、WWD日テレニュース24など多くのメディアで取り上げられました。

 

ビームス広報部の原田謙太郎さんによりますと、「店舗に来店されたお客様にとっては、着飾ったマネキンが店内にいることは、ソーシャルディスタンスを保ちながらも、華やかに見えてハッピーな気持になってもらえた」とのことで、来店されたお客様にとっても好評だったようです。また「普段は店舗でしかご覧いただけないビームスのマネキン(全身コーディネイト)を、食事にいらっしゃった多くの方にじっくりご覧いただけたことに加え、席に設置した(メニューに見立てた)QRコードからオンラインショップにアクセスしビームスの品揃えや世界観に触れていただくこともできた」そうで、ビームスにとって自店舗とは違った形でお客様に接するタッチポイントを増やせた好事例と言えそうです。また、テレビからの取材が多く、テレビ放映をみてご来店された方が多かったとのことですので、飲食店を運営するトランジットにとってもPR効果があったと言えるでしょう。

 

今後も同じような取組をしていく可能性があるのか伺ったところ、こちらの企画は代表や社員同士で親交があり、これまでも数々のコラボレーションを行ってきたトランジットとビームス双方でアイデアをもちあって実現したため、このフォーマットをそのまま転用することは現在予定していないとのこと。ただし異業種からのビームスとのコラボレーション、さまざまな企画立案を含めた法人向けビジネスについては、以下のサイトから問い合わせを受け付けており、相談は可能とのことでした。

ビームスビジネスプロデュース(法人向けビジネスサイト):https://www.beams.co.jp/beamsbusinessproduce/

 

実例2.伊豆シャボテン動物公園「森のどうぶつレストランGIBBONTEI」

コロナ対応でぬいぐるみディスタンス伊豆シャボテン動物公園にあるレストランでは、カピバラの人形を店内に置いています。人形との相席で食事を楽しみながら自然とソーシャルディスタンスが取れる仕組みで、その可愛さからレストランを訪れた方が写真付きで投稿したツイートが35万いいねされるなど大きな話題となりました。

この取り組みは、トラベルニュースや、REANIMAL、テレビ番組『スッキリ』や『モーニングショー』で取り上げられました。

伊豆シャボテン動物公園の企画広報部、三好紀代美さんからのコメントがこちら。

「お客様には快くソーシャルディスタンスを確保していただいております。特に小さなお子様連れのお客様やカップルのお客様は、ぬいぐるみとの相席の状況をむしろ楽しんでおられる様子をお見かけします。人間が座れないぬいぐるみ専用席『ANIMAL ONLY』席も可愛いと好評です。『ANIMAL ONLY』席の表示POPには、ソーシャルディスタンスの目安(約2m)を『大人のカピバラ2頭分』『フェネック6頭分』と、当園ならではの尺度で表示してありますのでこれもユニークだとお客様に大変喜んでいただいております。」

飲食席の削減を前向きに解釈してみせた「ANIMAL ONLY」席

 

実例3.くら寿司「オンライン新商品発表会」

くら寿司が2020年7月7日に行った、最先端のAI・人工知能が目利きした新商品「極み熟成AIまぐろ」に関するオンライン記者発表会では、ミルクボーイの2人が横幅2メートルの被り物をして登壇。オリジナルのネタを披露したものの、被り物が重すぎてネタを続行できないという流れもありました。ソーシャルディスタンスをとれるマグロの被り物で、インパクトある画作りに成功。

この取り組みは、ORICON NEWSマイナビニュースナタリーなど、エンタメニュースを中心にとりあげられました。

コロナ対応の画作りで、従来以上の露出を獲得※イメージ画像

くら寿司担当者の広報部、辻明宏さんからのコメントはこちら。

「ミルクボーイさんに出演頂いた発表会は「AIまぐろ」というブランド寿司の商品発表会で、私共としても、コロナ禍における初のリモート記者発表会となりました。記者さんなどの動員なども不安な中、注目頂くため当年のM1王者であるミルクボーイさんにお声がけするのは必然でした。運よくスケジュールもあいよかったです。
マグロの記者発表なので、M1のMとマグロのMをかけ、巨大なまぐろのかぶりものを用意し、その幅でソーシャルディスタンスを図って出演頂くことや、くら寿司をお題にした漫才まで作って頂き、社内、記者さんとも好評いただきました。記者さんを会場に呼べなかったのが残念なくらい面白い内容でした。おかげさまで、コロナ以前と変わらず、むしろ過去の記者発表でも高い露出量となりました。

 

消費は、ポジティブなニュースでこそ動く

コロナによって飲食業界はいまだ厳しい状況に置かれていますが、これら実例は広報・PRのヒントに溢れています。すべての例において、メディアが取材しやすい「画作り」が徹底されている点は見逃せません。そして「消費はポジティブなニュースで動く」ものです。楽しい文脈で露出するからこそ、業績へのプラス影響を得ることができます。ソーシャルディスタンスをはじめ、コロナ禍による様々な制約がありますが、それさえも前向きに捉えてみせるかがポイントと言えるでしょう。

Tags: PR-CASE

清水 絵理

Written by 清水 絵理

早稲田大学文化構想学部卒業後、プロダクションにてテレビキー局の情報バラエティ番組から、CMの企画まで映像制作に幅広く従事。 KMCでは、事業会社の広報側とメディア側どちらの視点も持っている強みを活かし、より多くの人を巻き込みWIN-WINの関係を作るPR支援を志している。 趣味は一人旅で、これまでに約20ヵ国をわたり歩く。いま一番行きたい国はボスニア・ヘルツェゴビナ。